スタッフブログ

2025.11.26

エコバウ建築ツアー(欧州視察) ③

おはようございます!

寒くなってきて、パッシブハウスの無暖房での暖かさに改めてその価値を感じている中桐です。

ぜひ、体感しにお越しください♪本当に心地いいですよ!

 

さて、では欧州視察の続きです。2日目のこの日は濃いので長くなります!

どうしても専門的になるので興味がないと離脱してしまうかもしれません(笑)

それでも「世界基準と欧州の今」を少しでも感じて頂ければ幸いです。

2日目 -day2-

■IBN(バウビオロギー研究所)

朝早くからバスで出発し、ドイツのローゼンハイムにあるIBN(バウビオロギー研究所)へ向かいます。

まず、バウビオロギーとは?ってところを掻い摘んでお話すると、Bau-Biologieと書くのですが、

ドイツ語でBAU=建築・BIOLOGIE=生物学を表します。直訳すると「建築生物学」

要するに「人が健康で快適に暮らせる建築を科学的に研究する学問」のこと。そう、数学や物理学と同様の学問です。

もう少し簡単に言うと「家が人にどんな影響を与えるか、人の体の仕組みから考える」 といった感じかなと思います。

例えば、空気の質や光の入り方、音や温度の感じ方まで、暮らす人がどうすれば心と体が心地よくいられるか」を大切にする考え方です。

私はこれが「性能のその先」にあるもののヒントだと思っています。今回ツアープログラムを見て、ここに来ることが大きな楽しみの一つでした。


■IBNの変遷と「バウビオロギー25の指針」

そんなバウビオロギーの本拠地であるIBNにて所長のシュナイダー氏のレクチャーから始まりました。

当然ドイツ語で書かれているので、前日のSTEICO本社でもそうでしたが、このツアーのコーディネーターである滝川 薫さんに通訳してもらいながらのレクチャーです。

ご紹介遅れましたがこの滝川さん(写真右端の女性)もスゴい方で、スイス在住なのですが詳しくはこちらから見てみてください。

建築知識のある通訳の方は稀有で滝川さんの通訳があってこそのエコバウツアーといっても過言ではないと思います。

 

シュナイダー氏からはこのIBN(バウビオロギー研究所)の変遷と、バウビオロギー新25の指針について。

「快適な室内環境」・「建材の選択」・「空間の造形」・「持続可能な環境の形成」・「エコソーシャルな生活空間」の5つの分類にそれぞれ5つずつ指針があり、合計25の指針となっており各建築や建材等を評価しているのとのことです。

また、この研究所が建築された様子や、その後の実測についてもレクチャーして頂きました。一部ご紹介すると、この建物には基本的に冷房がなく、自然換気で冷却しているとのこと。

室温が26℃以上になる日を加熱日と呼ぶらしいですが、最近では温暖化の影響もあって、気温が35℃になる日も2週間ほどあったとのことで、この期間に最大8日程度の加熱日があったとのこと。それでも27℃湿度50%でしたという話。

これが完成したのが2014年。もう10年以上前ということにも驚かされます。日本の10年前ってどうでした?


■ホルガー・ケーニッヒ氏のレクチャー

立て続けに次は、前日の夕食時もご一緒したホルガ―・ケーニッヒ氏からのレクチャー。

ケーニッヒ氏のことも少しご紹介すると、バウビオロギーの世界ではかなり有名な方で、IBN(バウビオロギー研究所)の中心メンバーとして、長年 「人と建築の関係」を研究し続けている建築家であり専門家です。

主催のイケダコーポレーションさんとも昔からの深いつながりがあるようで、化学物質・室内空気・自然素材・エネルギー設計など、住まいの環境をどう整えるかの総合アドバイザーのような存在で、世界中の建築家や技術者が彼の講義を受けているそんな方です。

多くの情報の中から、印象的なフレーズと、気になった言葉をいくつか抜粋してご紹介すると、

・持続可能性の3領域ー閉じない循環と閉じられた循環ー

エネルギー需要としてこれからはこの3領域を意識し設計すべき。

①費用 建設費、運転費、維持費、解体・除去費用

②LCA 温室効果ガス、環境酸性化、オゾン層破壊、一次エネルギー

③快適性 居心地の良さ

これらを、閉じずに循環させるということ。

資源に対しての意識が、そもそも日本とは違う。人もそうですが、法律含め国の姿勢が違うと感じました。

・成長する資源

欧州では、木をただの建材として見ていなくて、「育つ資源=未来に残せる資源」として扱われています。

使った分は必ず育てるという考え方が根底にあり、建築も資源を循環させる仕組みとして考えられている。

ここが日本と大きく違うところです。

・DGNB

DGNB(ドイツサステナブル建築協会) は、簡単に言うと 「建物のサステナブル度を評価するドイツの団体」

日本でいうとCASBEEになると思いますが、そのドイツ版。

CASBEEは日本らしく「省エネと性能が中心」

DGNBはここに「人の健康」と「暮らしの心地よさ」と「長期コスト」まで入ってくる。

評価項目に対する考え方の幅が違い、ここでも差を感じました。

本当に、体験ベースで話してくれるので腑に落ちる気づきも多く、私自身がこれまでの経験と知識からお考えていた細い線を思いっきり修正されながら、太くなぞられ上書きされていく感じのレクチャーでした。

最後に模範建物であるIBNの建物を視察し、午前の視察は終了です。


■フロリアン・ナグラー氏の実験集合住宅視察

午後からは同じくドイツのBad Aibiling(バート・アイブリング)にある建築家フロリアン・ナグラ―氏による実験集合住宅の視察へ。

この並びで建てられた3棟はそれぞれコンクリート外装、木外装、レンガ外装と外装に仕上げが違います。

基本的に全て集合住宅なので、実際に入居者はいます。生活してもらい実データも取りながら実験しているとのことです。

施主は大手不動産デベロッパー会社とのことで、このような実験住宅に一企業が大型投資しているあたりが、既に日本と違うなと思うところです。日本では、メーカーが自社の商品を使っての実験住宅みたいなことはあっても、不動産デベロッパーがそれを実行しているということはあまり聞かない。(私が知らないだけかもしれませんが…笑)

この3棟の他にも、もう少し戸数の多い集合住宅や、その経験を活かして建築している施工中に現場など盛りだくさん。


ということで、ケーニッヒ氏の時と同様に気になった単語を3つに絞って抜粋すると↓こんな感じです。

・ローテク(ローテクノロジー)

現地で強く感じたのは、「ローテク=原始的な方法に戻る」ではないということ。

日射遮蔽、蓄熱、風の抜け方、素材そのものの力…、こうしたシンプルな工夫がローテクと言われるけど、そこにあるのは、ハイテクに頼る前に建物そのものが出来ることを最大化するという考え方。

日本でいうと「古い工法に戻る」的なイメージがありますが、ここで見たローテクは全然違う意味として使われていたように私は感じました。

要はここで意味するローテクは、「ハイテクの代替えではなく、ハイテクの上に成立する」ということです。

建築物理の理解、エネルギーの最適化、断熱・気密の技術等の積み上げた土台があってこその、ローテクが最大限効果を発揮しているイメージです。

・マッシブな建築

ドイツで言う「マッシブな建築」とは、簡単に言うと石やレンガのような重い素材でつくる蓄熱性の高い建物のこと。

家の温度変化がゆっくりで、長く住んでも快適さが崩れない。「時間に強い建築」とも言える考え方。

全体的に結構重い建築が多かったように感じました。地震大国である日本では、軽くする傾向があるので慎重に考えなければいけませんが、つくった建築を長く遺す前提で建築しているとも言えます。

・地域熱供給

印象的だったというか、こんなことを普通にやっているのか…という事実に驚いた「街ぐるみ、地域ぐるみでエネルギー(熱)をシェア」する仕組み。

工場の排熱や木質バイオマス、地熱などをまとめて街の熱源にして、そこから温水をパイプで各家庭へ送る方式。

家ごとに給湯器を置かないので、メンテの負担が減るうえにエネルギー効率も非常に高い。

CO₂削減の効果も大きく、欧州の政策とも相性がいい。つまり補助金の恩恵も受けられるという仕組み。

簡単に言うと、「町や地域全体でエネルギーを最適化する」という考え方です。

他にも、たくさんの学びがありましたが、長くなりすぎてだんだんブログじゃなくなってくるのでこれぐらいで…(笑)

こうして、ドイツの視察はこの日で終了。ここからはバスで3時間くらいかけて、オーストリアへ入国です。

陸続きなので、この標識↓のはオーストリア、はイタリアを指し、日本で県をまたぐような感覚で国をまたぎます!(※もちろん検問所みたいなものはありました)

宿泊予定のホテルへ到着し夕食後、しばらく部屋でツアー参加者のみなさんと建築談義。こうして2日目を終えました。

※ここまで書いていて思うのは、まだまだ書き足りない所が多く、全て紹介するには長くなりすぎるなと…(笑)

やはり現地で見る、体感するに勝るものはないと思います。

特に建築関係者の方は、文書にならない部分を感じにぜひ行くべきだと強く感じました。


■2日目のまとめ

頭では分かってはいましたが日本の住宅レベルと意識の差をまざまざと見せつけられました。

日本では今も「断熱」「気密」という言葉が声高に語られていますが、欧州ではそれは 当たり前すぎて話題にすらならない状況でした。

それは、決して「断熱」「気密」を軽視しているわけではなく、もうそのフェーズはとうの昔に終えているのです。

国がつくる公共建築物も含めてパッシブハウスレベルが当たり前に建っていて、建築における製造~廃棄、資源、環境、未来への循環へテーマが移っています。

日本で断熱等性能等級6とか7とか、G2とかG3とか、気密がどうだとかを言っていること自体が、正直恥ずかしくもなり、この水準に日本が至るまで何年かかるのだろうか?いったい何周遅れているんだ…と静かに打ちのめされました。

ただ、日本が全てにおいて劣っているわけではないのも事実で、詫び錆びある情緒をもった美しさや、仕上げの精度、正確さや綺麗さは日本独自のものがあり、素晴らしい技術と感性だと思います。

だからこそもったいない。もっとできるのに…と思ってしまいます。

そしてあともう一点、地震に関しては、欧州には地震が少ないこともあり、地震大国である私たちの耐震への意識・技術は世界トップレベルだと確信しました。

うまく組合せてよりよい建築を遺して、未来へ継いでいきたいと思います。

以上、なんだか全体のまとめみたいになりましたが…それぐらい衝撃を受けた2日目でした!

次回、3日目は世界的建築家カウフマン氏との一日です。こちらも濃い一日でしたので楽しみにしていてください♪

それでは、素敵な一日を!